第13回 帆かけサバニレース 




いつもの年ならレース3~4日前には座間味入りするが、

今年は訳あってレース当日沖縄本島から伴送船でスタート地点である古座間味ビーチに乗り付けた。


陸送される名護からレース前の準備まで殆どを任せきりにしていたが、レースへの準備はあらかたは

終わっていたので、慌てる事もなく特段やるべき事は無かった。 



それでも残されたクルー達にとっては、私が本当に参加できるかも怪しかったので何かと大変だったと

思う。 



ビーチにセッテングされたサバニは、今すぐにでも飛び出せるようになっていた。




気になるのは女海想だった。 

だが、いちいち私の顔色を(アドバイスともいう)伺いながら事を進めるより、自立する意味では良かっ

たのかも知れない。 



親離れというより、私自身が子離れしなければならないのかも知れないが、、































そんな訳で、今年は参加できる事に感謝し無欲で行ける。 




無欲になると何のプレッシャーもなく、日傘を片手にスタートを待つギャラリーと同じ心境になる。 

そうなると自分のところはさておき、やはり女海想が気になる。 




昨年から今年にかけて、男の方は装備の準備から練習まで殆ど無かった。 

その分、まだまだ課題の残る女海想を徹底的に鍛えやるべき事は全てやったと思える。 

問題は紙上では計算しきれない、レース中にしか判断できない場面が必ず出てくる。 



ここをどうミスなくこなすか? 



多くは経験でしか積み重ねるしかないのかも知れないが、

それでも勝敗の分岐点は、想像しえない現場でしか決断せざるをえない局面が必ず出てくる。 



こうした場面をどう乗り切るか?

その決断の良し悪しが結局はものいうだろう。


クルーそれぞれがサバニから離れ ル・マン方式でカウントダウンをとっている間でさえ、

女海想のクルーの顔色や上空を舞うヘリ、ビーチに吹く風向き、沖を通る風向きを見ていた。





昨日まで僅かに入っていた東の風向が南に変わり、風もうねりも落ちた。 

程良い風が各チームを気持ちよく那覇まで運んでくれるだろう。



だがこの条件は、私たちにとって有利とは言えない。

むしろ僅かに東が入った昨日の方が有利だったろう。 



レースはその日の海況によって、チームごとにその優位性は当然ながら違ったものになる。 



私にとってレースの準備とは、その差を最小限にする事なのだが、6メートルのサバニに4人のクルー

という条件で、このところ数年の準備で限界なのかも知れない。と思い始めている。 


最も大きな理由は、強い風に対しても十分な帆走能力を付ける事なのだが、簡単に言えば大きい帆を

備える事なのだが、それはサバニとのバランスを欠き沈のリスクを加速させる。 



昨年より15%upした帆で、8メートルを超える風で敢えてリーフの砕ける波に突っ込んだりして練習を

重ねてはいても、この辺りがこの大きさの限界のような気がする。





ホーンが鳴った。 






















「ゆっくり ゆっくり!」 他はさておき、私たちは慌てる事はない。

アウトリガーのないサバニは勢いよく沖に出る必要はない。



波打ち際でもラダーを壊す事もなく、乗り込みは浅ければ浅い程、安定した状態で乗り込める。

風向は多少下ったとしても影響は無い。 



数艇は前を行くが、混雑を避け艇のいない北側に向う。  

風が落ちれば私を含め4人で漕げるが、風があるため保進のため漕ぐのを諦め、エークによる舵取り

をしなければならない。

よってこれより先、那覇まで3人で漕ぐしかない。






艇がバラけてきたところで各艇を縫いながら改めて見まわしてみる。 

初めのコーナーである灯台に向けて、やはりざまみ丸がいち早く抜けていた。 



糸満市でのレースを教訓に、他との接触を避け間隔を取りながら慎重に進む。 



自分の艇がどれほどのスピードで走っているのか?

その微妙なスピード感覚は他の艇と比較するしかない。

各コーナーのポイントでチェックする。 



事前に距離予想到達時間を立てているので、時計を見るだけで大よそスピードは想像できるが、スピ

ードより他艇との距離感の方が重要となる。 


















灯台を抜けた時点でなかなかいい感じで走っているようだ。 

現時点で5~6番手、ここから渡嘉敷島北端までは何艇か抜かれると覚悟していたが、到達してみると

殆ど同じ位置をキープできた。 



今日の風向なら灯台からジシップ(渡嘉敷北端)までは単純に帆の面積が大きい方が有利となる。 

出場チームの中でも下から数えられる私たちの小さな帆はここが最も不利なポイントだ。



だからスタートからジシップまでは、アウトリガー付のサバニや大きいサバニ(大きい帆)に食いついてさ

え行ければ、ここを過ぎてからは帆の優位性は変わらずとも、風向によるアドバンテージは下がり、小

さな帆でも性能さえ劣らなければ戦えるチャンスはまだ残っている。




操船は強い追い風、追い波が最も難しく、そのため練習ではテンナーの調整はそうした条件で設定して

いた。

今回、南だったので比較的走りやすくかったが、調整が追い風用のままだったので中途半端で帆が何

度もバタつく場面があった。 




競った状態が続くようなら、どこかで調整していただろうが、順位に変動が無さそうだったのでこのまま

行く事にした。





(気付いた時点で調整していたら、もう少し楽な展開が出来ていたと想像するが。

ちなみに女海想に対しては朝到着するなり、きっちり調整していたのだが、、)





黒島までは想像していた通り潮が走っていた。(南) 

こうした条件下で渡る方法として、ざっくりと2通りの方法が考えられる。 



ジシップ付近の比較的、潮の影響を受けない辺りから徐々に北に上り潮が走ってきた辺りで流れに逆

らわず、その潮に乗り黒島の脇を抜ける方法と、初めから流される前提で、黒島南にある立標の南を

抜け南の風に乗って上る方法。



言葉では簡単だが、そのどちらを選択するかは悩ましく、その判断によって順位は大きく変わる。 


今回、私は前者を選択した。 


前者は最短距離で向かえる。というメリットはあるものの、潮に逆らい結果、遠回りだが潮に乗った後ろ

の艇に抜かれる。


そんなリスクもある。 


後者は潮の影響を受けず、更に利用できる。

その分、大きな弧を描く事になり距離を走る事になる。

南風を考えれば後者を選んだ方がリスクはないと思う。 




(当日は中潮と言っても昼の潮は28センチまで下がる。 殆ど大潮と思っても差し支えない。

小潮や大潮などと、ざっくりとしたくくりではなく、何時にどれだけの潮が下がるのか?

それによって、どこがどれほど走るのか?予め予想をたてておく事はとても大事なことだ。 

私の場合、殆どの場面で予想が外れる。そして外れる可能性が高い。という前提で、

現場で最善の道を探る。これはレースに限らず航海にも通じる。)




最もやっては行けない方法は、流れに逆らって無理やり方向を維持しようとする方法だ。 

潮流も海流も中心に近ければ近いほど強い。 

流れはいずれ、どこかで治まる。


今回、風は南から吹いているので潮によって多少南に流されても、距離のない川と違って、向うべき方

向は方位にして数度しか違わないので、帆と漕ぎで走りながら僅かずつ修正していけばいい。



どちらの選択もできるように、感覚で潮の走りが分かるまでは黒島に向い、潮が走り始めてから潮に逆

らわない程度に前島北に真っすぐに進路をとった。



その進路を交わせなかったら無理をせず南に抜ければいい。 

結果はスピードを落とさず舟の進路を維持できたので真っすぐに進んだ。 


この選択は正しかったのかは今もって分からない。 


ただ、前島まで追い越された艇がなかった事を思えば、少なくとも選択に大きな差はなかったのではな

かろうか?






















黒島と前島の間は距離もあり、この風と潮の関係は操船には都合がいい条件が揃っている。 

何に気を使う事もなく真っすぐに進む。 



幾つかの艇を交わし、前にはざまみ丸と女海想が競っている。 

前島の壁に阻まれて風が落ち、漕ぎの優位で、もしかしたら近づくかも、と淡い期待をしたが、時間を追

うごとにどんどん離されていく。



一方で後ろからの追い上げがない。 

ここから前の2艇に追い付く事は現実的ではない。 

ならばリスクを避け、この位置をキープする事することにする。 



波の上がる外洋を避け、徐々にチービシに近づき、伴送船の入れない浅いコバルトブルーの海を走ろう。 



前島からは、霞むビルを見ながら景色も単調となる。 

同じ向うにしても、横に白い砂浜を見ながらなら気分もいいに違いない。



島の間から抜ける潮が小さな渦をつくり、鏡のような海面を見せる。














チービシを抜ける頃になると「源丸が近づいているよー」と伴送船から声がかかった。

4時の方向にグングン迫る舟が見えた。 

余裕をこいている場合ではない。



どうしたものか?戦略を練った。 

明らかに向こうの方が風が上がり潮の影響もなさそうだった。 

あれほど離れていた距離がここまで近づく。という事は、向こうが速いというより、私たちの方が遅い。と

いう事だ。 




チービシに近づきすぎて、南に向う反流に捕まっている事は直ぐに想像できた。 

前に進んでいる事に満足して他艇との距離間を無視していた。



気付いた時は、時既に遅し。の感は否めなかったが、やるだけの事をやってみよう。

まずはここから抜け出す事だ。 



スタートから前島までは、ざまみ丸と女海想のスピードには適わなかったが、他艇には勝っていた。 

このままゴールに向かうべきか迷ったが、まだ僅かな反流が残っている以上、このままゴールに向かわ

ずに、追い越されてもまずは同じ条件下に入って、それからが勝負だ。 



南にコースを大きく変えた時点で横一線に並んだ。  

だがまだ同じラインには届いていない。

横を向かなくとも視界に入ってきた。明らかに抜かされてしまった。 

僅かな時間であっという間に追いつかれ、抜かされてしまった。 




スピード差は歴然としていた。

追い越されはしたが何とか同じラインに入った。 



この時点で少なくとも50メートル以上の差が開いていたと思う。 




やるべき事はここまでの間に幾つか考えていた。


 

更に上ってラインの風上に入り、大きな声で叫んだ。 

「ここからが勝負!」 「行くぞー!」   




名護での練習でよくやっている「サバニでサーフィン」。



考えていた一つをここから試してみる。

うねりは10度程北に寄っていた。 

数分に一回大きなうねりが来る。 

そのうねりの頂点の手前でサバニを10度程北に傾け波に立て、4人が一斉にハイスピードでエークを漕ぎ、その波に乗る。  


「ヒャッホー 乗った。 乗った。」 

「早い 早い!」



乗った瞬間、伴送船のゴムボートが置いてきぼりになるほどスピードに乗っているのが分かった。



波の頂点がサバニを超えるとガクンと減速する。 

次のうねりを探すまで風上に登り、元のラインに戻って次の波を探しサーフィンに備える。 



乗れる。と思った波が急に衰えて乗れない事もたびたびあったが、乗れた時のスピードは想像以上のものがあった。 



名護での遊びが、こんなところで役にたつとは。



幾つかの追い波で目に見えて近づいているのが分かった。

もしこの方法でも追い付かなかったら、試してみようと思っていた策がまだ幾つかあったが、グングン近

づいている以上、敢えてリスクを冒して試す必要はなさそうだ。


このまま大きな波を拾いながら進む。

幾つかの波に乗って何とか追く付くことができた。 



追い付き、そして追い抜く時は敢えて距離を置いた。 

追い波に乗る戦略を露骨に見せたくなかったのと、単純に舟の性能で勝っている。と思ってくれた方が

相手のモチベーションも下がり、追い抜く気力が萎えるのではないか? 


追い波を利用するときはメリハリのある漕ぎをしていたので、ある程度休める余裕もあったが、追い越

してからは波を利用しない以上漕ぎに徹した。 































追い越してからの漕ぎはそれはキツカッタ。

ゴールは直ぐそこの筈が漕いでも漕いでも近づかない。 



そのうち防波堤の返し波でうねりは徐々に消え、もしこのまま追い付かれるようなら追い波に乗る戦略

は使えない。 


後ろを見るとその距離は全く変わっていなように見える。

「行くぞー 漕げー」 



真っ直ぐにゴールに向かい方向を定めると、ざまみ丸と女海想の帆が降ろされ、既にゴールしているのが見えた。 



仮にコースをミスしなくとも、この2チームには適わなかったと思う。 



レースは、各チームにとって参加する目的も変わるから決して順位だけが価値ある事でないが、それで

も年を追う毎に多くのチームがレベルアップしている中にあって、3番目にゴールできたのは上出来だと

思う。 



上位2チームとの力の差は歴然としているので悔しさはない。 


だが、強敵ざまみ丸より早くゴールする。 


なかなか超えられない大きな山だが、高い目標があるからレースは楽しい。

















圧倒的な速さで前を行くチームに対して、早々と追いつく事を諦め安全策をとらなければ、もう少し楽な

レース運びができたかと思えば、応援してくれた仲間や、徹頭徹尾漕いでくれたクルーに対して申し訳

ない事をした。と反省しきり。


それでもこれがあったから、競った面白いレースができた。と思えばいいのかなー。




おしまい。




Text by 森 洋治

Photo by サバニ仲間のみなさん Thanks !


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